研究室訪問

  • 人間教育
    学科

    • 准教授
    • トミヤマ アツシ 冨山 敦史
  • 乳幼児教育専修 准教授 冨山  敦史(トミヤマ アツシ)

プロフィールを教えてください

  •  私は、奈良教育大学教育学部小学校教員養成課程国語専攻(漢文学専攻)を卒業後、中国留学を熱望するも果たせず、生活のために奈良県内中学校の国語科教員となりました。
     学力向上、生徒支援(問題行動・いじめ・不登校等)、特別支援、進路指導などの困難な仕事に深く関わる日々の中で、働きながら夜間大学院修士課程(教育学研究科)で自らが学び直すことを通して生徒の理解や支援を深めていきました。そして、かけがえのない一生をどう生きていくのかを常に問いかけながら子どもたちとの毎日を懸命に過ごしてきました。
     その後、学生時代からずっと研究を続けてきた中国古典文学を、職場の理解を得て、大学院博士後期課程(文学研究科)で再び学ぶ機会に恵まれました。その学びの中で、古典を子どもたちの生きる糧としていく国語科教育の重要性に目覚め、教員を目指す若い人たちに伝えていきたいと願い、教員養成を担う大学の教員となりました。私は研究者であると同時に、一人の実践者として、子どもたちと教育現場の先生たちに関わっていくことを信条としています。

どんな研究をされているのですか?

  •  私は、学びに困難を抱えている児童生徒の皆さんが、安心して学ぶ喜びを喚起できる授業づくりや学習環境の整備、支援のあり方について研究しています。具体的な研究の柱は次の3つです。
    ・1つ目は、中学校教員29年間の授業実践に基づく「国語科教育学」です。どうすれば児童生徒の皆さんにとって、楽しくて生きる力を養うことができる魅力的な国語科の授業を具体化できるのかを学生や生徒の皆さんといっしょに考えています。
    ・2つ目は、大学生からずっと研究している「中国古典文学・思想」の生きる知恵を子どもたちに伝えて、困難を切り拓いていく力(レジリエンス)を培っていきたいと願っています。特に中国盛唐の詩人である杜甫(712‐770)の詩論や思想、人としての生き方について深く共感し、探究を続けています。
    ・3つ目は、学校における「読み書きに困難を抱える児童生徒への支援」の研究です。教育の仕事は、多様な背景とさまざまな課題を持つ子どもたち一人一人が、それぞれの個性を活かして自立し、社会で他者と共に幸せに生きていく力を育む「対人援助職」です。みんなが幸せになるためのツールの1つとしての「文字」の読み書きに困難を抱えている子どもたちが、自分自身で必要な学びの方法を選び取っていくための学習環境の整備や支援のあり方について、当事者側の立場から研究しています。

今の研究分野に興味を持つきっかけやエピソードを教えてください

  •  私の研究の原点を支えるものとして、次のような問いがあります。
     「文字」の誕生が本当に人間を幸せにしたのか?中国文字創生神話によれば「むかし蒼頡が文字を作ったときに、天は穀物を雨のように降らせ、無実の罪で死んだ者たちは夜にむせび泣いた(昔者蒼頡作書、而天雨粟、鬼夜哭)『淮南子』」とあります。これはいったいどういう意味なのでしょうか。
     「文字」に書き残すことや「文字」を読み書きできることは、優越性や正統性(支配者となること)につながるのか?
    反対に文字を読み書きできない者は常に支配される側になってしまうのか?
     ならば、残された「文字」は本当に「正しい」のだろうか?その真偽は誰がつけるというのでしょうか?本当に「正しい」文字(記録・歴史)など存在するのだろうか?
     人は何のために「文字」を学ぶのだろうか?自らが支配者となり人を支配して自らの幸せを得るために学ぶのだろうか?
     だったら「文字」を学ぶ(学ばせる)教育とは何のために行うのだろうか?今一度、文字創生の原点に立ち返り、問い返してみたい。
     「文字」を学ぶ意義とはいったい何か?人は歴史(残された文字の集積)に学ぶことはできないのか?。歴史を作る(記録する)のはいったい誰か?残された歴史の真偽とは?
     さまざまな「問い」が駆け巡ります。そのどれもが関連をもち時間軸を越えて交錯していきます。これらの「問い」を根底に据え、文字・文学・教育・歴史を縦横無尽に繋いでこれからも考えていきます。

担当している授業の中の1つを紹介してください

  • 国語科教育法Ⅱ

国語科教育法Ⅱはどんな授業ですか?

  •  2年生次「国語科教育法Ⅱ」の授業(必修)では、3年生次に教育実習に行くための具体的で実践的な教育方法(国語科授業づくりの基礎基本)の数々を、子どもたちの実態に即して実践的に学んでいきます。
     まず文部科学省の定めた各校種の「国語科学習指導要領」を比べながら深く読み込み、一人一人の子どもたちの願いを実現するための具体的で基礎的なことがら(指導事項)を明らかにします。
     次に子どもたちの実態を把握する方法を探究し、指導事項を身につけるための基礎基本となる指導過程を把握すると同時に課題への取り組み方(学び方)も学んでいきます。その際に様々な背景を持つ子どもたちの学びのニーズに対応できるあらゆる支援の方法も考えます。
     最後に、指導事項が子どもたちの身についたかどうかを確かめるための評価方法と評価基準を設定します。
     これらのことを学んだ後、学習指導案の作成、模擬授業の実施、相互批評へと、より実践的な学びを深めていき、自信と安心感をもって教育実習に臨めるよう受講生同士で切磋琢磨し向上していきます。

趣味や特技など好きな休日の過ごし方などを教えてください

  •  私にとっては毎日が学びの連続です。とくに学生諸君との語らいは何よりも学びが多い瞬間です。対面だけでなくオンライン上の対話も私の知的好奇心を喚起し、双方ともに簡単に時空を超えていきます。一期一会の対話の力を信じます。
     私は音楽全般に興味関心をもっています。ことばや「文字」では表現することのできない力を音楽はもっています。音楽は人の心をとらえます。音楽により感情が左右されることがあります。ことばと同様に、いやそれ以上に、人の心、感情をコントロールする力を「音楽」はもっています。中国古代の思想家である孔子は音楽をもっとも重視しました。聴くこと、奏でること、合わせること、これらを実践していくことで、世の中の調和を願っていたのでしょう。 
     ことばを超えた音楽の力に私はこれからも魅了され続けるでしょう。
    皆さんはどんな音楽が好きですか?感情を超越した音楽として私はヨハン・セバスチャン・バッハの楽曲が好きです。心が感情の縛りから解放される瞬間を楽しんでいます。