看護
学科-
- 教授
- イワモト ジュンコ 岩本 淳子
プロフィールを教えてください
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私は、佛教大学教育学部教育学科:初等教育学科、大阪教育大学大学院健康科学:人間生態学研究、女子栄養大学大学院:保健管理学研究を修了し、現職に就いています。学位は博士(保健学)で、保健管理学分野(人々の健康を保持増進し、生活の質の向上に向けた研究を行う分野)の研究を行っています。看護師の実務経験は6年で、病院から看護学校への配置換えを機に看護教育の世界に入りました。
私は看護教育について今年で30数年を迎えますが、ずっと「成人看護学」領域の講義・演習・実習を担当してきました。本学では「成人老年看護学」という領域になりますが、成人期の生活の延長線上に老年期があるという考え方を基調に、人の健康レベルに応じた看護を(例えば、健康の保持増進、急激なそして慢性的な健康の破綻、健康の回復、安らかな最期)実践するための基礎的能力の修得をめざしています。
本学のディプロマポリシーの「看護の対象となる人を生活者として全人的に理解し、科学的思考に基づいて質の高い看護を実践できる力」を育む需要な科目の一つであります。
どんな研究をされているのですか?
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最近は「病室環境研究」に取り組んでいます。
20年ほど前になりますが、病室環境に関連した医療事故の文献を検索していると、高齢者が入院中に転倒する率が全国的に高いことを知り、大変驚きました。
病院内転倒は、外傷や骨折の原因になるだけでなく、在院日数の増加やそれに伴う医療費の増加にも関連します。そのため、これまでにも病院内転倒を予防するためのプログラムが実施されてきましたが、十分に高い効果は得られず、病院のリスクマネジメントの観点から「病院内転倒予防」は保健管理学研究の重要な課題であると考えました。
その後、いろいろ調べていると、高齢者の病院内転倒の危険因子として、睡眠障害・うつ症状・認知機能障害が重要であることがわかりました(1-5)。
そこで、入院により日中の光曝露は病室環境に強く依存することから、病室の光曝露量が少ないほど体内時計の乱れを引き起こし、睡眠障害・せん妄・うつ症状・認知機能障害を介して入院中に発生する転倒の原因になっているのではないかという仮説を立て「病床の照度と転倒との関連」についての研究を始めました。
まず病室の明るさに関する調査を行いました。その結果、
①窓側病床は廊下側病床より日中平均照度が約3倍有意に高く(327.9ルクス vs. 118.4ルクス)、窓側病床の日中照度は在宅高齢者の日中曝露照度(337.3 lux)と同等であることを明らかにしました(6)。
②入院中の60歳以上の患者の電子カルテ情報を集計した後ろ向き研究を行い。窓側病床に入院した患者の病院内転倒率は、廊下側病床に入院した患者より有意に低かったことを明らかにしました(発生率比, 0.61; 95%信頼区間, 0.47-0.79)(6)。
現在は、より根拠の高い成果がでるよう、多施設前向きコホート研究に取り組んでいます。
1. Evans D et al. Falls risk factors in the hospital setting: a systematic review. Int J Nurs Pract. 2001; 7:38-45.
2. Brzezinski A. Melatonin in humans. N Engl J Med. 1997; 336:186–195.
3. Czeisler CA et al. Bright light induction of strong (type 0) resetting of the human circadian pacemaker. Science. 1989; 244:1328–1333.
4. Obayashi K, Iwamoto J et al. Positive effect of daylight exposure on nocturnal urinary melatonin excretion in the elderly: a cross-sectional analysis of the HEIJO-KYO study. J Clin Endocrinol Metab. 2012; 97:4166–4173.
5. Mishima K et al. Diminished melatonin secretion in the elderly caused by insufficient environmental illumination. J Clin Endocrinol Metab. 2001; 86:129-134.
6. Iwamoto J et al. Decreased daytime light intensity at non-window hospital beds: comparisons with light intensity at window hospital beds and light exposure in non-hospitalized elderly individuals. Chronobiol Int. 2018; 35:719.
今の研究分野に興味を持つきっかけやエピソードを教えてください
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フローレンス・ナイチンゲールの『看護覚え書』の看護の要素に「新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさを適切に整える」という一文があります。しかし、ナイチンゲールのいう環境要素を適切に整えることが人の健康や回復過程にどのような影響を及ぼすのかということについて、これまでリアルワールドの研究は乏しいのが現状で、十分な知見は得られてきませんでした。
かつて務めていた大学で住居と健康の関連をテーマに様々な研究が立ち上がりました。私は医学部の博士研究員の立場から光曝露と健康との関連を解明する大規模疫学研究(平城京スタディ)へ参加しました。
平城京スタディは、奈良県の60歳以上の男女1128名を対象として実施された大規模な健康調査で、結果として、
・日中の光曝露量が多いほどサーカディアンリズムの指標であるメラトニン分泌量が多く、日中の光曝露の減少はメラトニン分泌量の減少と関連する。
・夜間の光曝露が多いほどメラトニン分泌量は低下する。
・メラトニン分泌量の減少は、糖尿病、高血圧、全身性炎症、夜間頻尿、筋力低下、鬱症状、認知機能低下と関連する。
・夜間光曝露の増加が肥満症、糖尿病、脂質異常症、睡眠障害、鬱症状、動脈硬化と関連する、などが明らかになりました。
要するに、現代人は、日中の屋内生活により日中の光曝露量は少なく、夜間は人工照明を使用して夜間の光曝露量が多くなる傾向があること、そしてこのような不自然な光の浴び方が疾病の発症や健康生活を阻害する要因になっていることが実証されことを機に、病室環境のありようを再考するようになりました。
担当している授業の中の1つを紹介してください
- 成人老年看護学概論
成人老年看護学概論はどんな授業ですか?
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「成人老年看護学概論」のうち、主に成人看護学領域を担当しています。
成人老年看護学概論は2年生後期から始まる科目で、成人看護学援助論、援助論演習、実習に共通する看護の考え方を学びます。
成人期は「おとな(大人)」という言葉とほぼ同義で、人生の中で最も長い期間は、発達段階の特徴を捉えて青年期、 壮年期、 向老期と分類されますが、それらは決して分断されてたものではなく、連続したものであり、老年期も成人期の延長線上に存在するという考え方をします。
人は 成長・成熟・老化の過程をたどる中で様々な経験を積み重ね成熟していきますが、成人期は生活のイベントや生活習慣、労働環境、人間関係が最も充実する時期であると同時に、 これらの変化に伴って心身のストレスや危機状態に陥りやすく、 また、 事故や生活習慣と関係した疾病に罹患しゃすい時期です。
成人看護学概論は、 このような成人期にある人々の身体・精神・社会的な特徴を理解し、 成長・発達を促していく支援の在り方や、健康レベルに応じた看護を実践するための看護の基本的な考え方を学ぶ専門科目です。
青年期にある学生さんたちは自分自身のこととして、 また成人期にある両親のことを想像しながら真剣に授業を受けてくれています。
趣味や特技など好きな休日の過ごし方などを教えてください
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平日も休日も生活リズムはほとんど変わりません。
休日も仕事モードから抜け出せないのですが、唯一、家にいるときは隙間時間に愛犬たちと戯れることが楽しみの一つになっています。我が家の「キン」「カツオ」「アジ」「ホタテ」です。どの子がどの名前かは秘密です。
そのほかの休みの過ごし方というと、夫と畑仕事をすることです。今の時期はトマトがおいしいです、秋になるとサツマイモが収穫できます。皆さんは、しっとり・ねっとり系のお芋が好きですか?、ほくほく系のお芋が好きですか?、今年はしっとり系の「紅あずま」が収穫できる予定です。
そして、私の仕事を理解し、誰よりも応援してくれる、夫の日々の生活の最低限のニーズを満たすために、平日5日分の夕食を作り置きすることでしょうか。