リハビリ
テーション
学科-
- 講師
- ナカタ オサム 中田 修
プロフィールを教えてください
- リハビリテーション学科作業療法学専攻の中田です。奈良出身で高校まで県内で過ごしました。大学では遠方で下宿生活をしていましたが、就職を機に奈良に戻ってきました。はじめは一般企業に勤めていましたが、作業療法を知って興味をもち20代半ばで再び学校で学びなおし作業療法士になりました。総合病院で作業療法士として10年近く働いた後、神戸の専門学校の教員となりました。そこで十数年働いた後、地元に新しくできる奈良学園大学の教員として働かないかとお誘いを受けて今に至ります。
どんな研究をされているのですか?
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私は作業療法士として、心身に不自由さを抱えながら生活しているさまざまな方に対して、そのひとらしい生活が送れるように援助することを目的として、いくつかの研究を行っています。たとえば、交通事故による外傷や脳の血管の損傷(脳の血管が詰まったり脳の血管が破れたりする)が原因で、物忘れやうまく物事が判断できなくなるなどの症状が起こることがあります。あるいは、歳をとると物忘れや判断のしにくさなどは自然と起こってきます。そういった症状を抱えたまま生活するのはなかなか大変です。そこで、まずそういったひとがどんなことに困っているのかを調査して、その対策を具体的に立てることを目標しています。例えば事故で脳に障害を負った女性の調査を行ったところ、トイレの水を流し忘れて本人や家族が困っているということが判りました。そこで工学系の先生と協力して流し忘れたときだけ音楽が流れるシステムをトイレに設置し、問題を解決することができました。同じ病気でもひとそれぞれ困りごとは異なるので、これからも作業療法士として個々の事情を踏まえた対応ができるような研究を心掛けます。
私の対象は子どもから高齢者までさまざまですが、最近は注意集中やコミュニケーションに困っているお子さんに対する乗馬療法の効果に関する研究も行っています。こちらは始めたばかりなのですが、どうやら落ち着きや自尊心を高める効果がありそうだという結果が出つつあります。この研究を進めていくことで、周りのひととの関係がどうもうまくいかいないと感じているお子さんに対して、問題解決の手助けになるのではないかと考えています。
今の研究分野に興味を持つきっかけやエピソードを教えてください
- 私は大学では生物学を専攻しており、その関連でもともと脳のことに興味がありました。脳に何らかの損傷などがあると、そのひとはさまざまな不思議な行動をとることが知られています。そして脳は一度ダメージを受けると、現在の科学ではもとに戻すことは難しいとされています(将来的にIPS細胞などの研究が進めば、脳細胞の回復に関してはかなり望みがあると思っていますが)。作業療法では脳にダメージを負ってさまざまな困難な状況にある人に対しても、何とかしてそのひとにとっての幸せを一緒に追求しようとします。私が日常生活の困りごとの研究を始めたのは、脳がもつさまざまな役割ごとに困ることが違うのではないか、そのひと毎にどうなりたいかが異なるのではないかと考えたことがきっかけでした。記憶がよくなるとか物事に集中できるようになることはもちろん重要なのですが、それができるようにならなかった(元に戻らなかった)場合はどうすればよいのかを、今現在日常生活で困りごとを抱えるひとの生活を分析することで、解決の糸口がつかめるのではないかと考えたのです。現時点ではまだまだ研究を進める必要がありますが、脳の損傷からさまざまな生活上の困難さを抱えるひとに対して、少しでもそのひとらしい生活を送るお手伝いができればと思っています。
担当している授業の中の1つを紹介してください
- 高次脳機能障害作業療法学Ⅱ(各論)
高次脳機能障害作業療法学Ⅱ(各論)はどんな授業ですか?
- 脳に何らかの損傷を負うと、その損傷の度合いやどの部分かなどさまざまな要因で行動や認知に問題が起こり、日常生活に支障をきたします。このような脳のダメージを原因とするさまざまな認知や行動の障害のことを総称して高次脳機能障害といいます。この授業では、高次脳機能障害を構成するさまざまな障害について具体的に学びます。1つ例をあげます。右の脳の損傷(脳には左右があります)で、左半分に気付きにくくなる「左半側空間無視」という症状が現れることがあります。私が経験した患者さんの書いた花の絵を載せておきます。ご本人は見本を見ながらこの絵を描いたのですが、これで「書けました」とおっしゃっていました。この症状がある人は、日常生活では左側の人や物に気付かずにぶつかる、左側にあるものを見つけられないなど、さまざまな困りごとがおこります。他にも喋りにくくなる(失語症)、物覚えが悪くなる(記憶障害)、臨機応変な対応ができなくなる(遂行機能障害)などさまざまな症状のことを具体的な例を挙げながら講義を進めていきます。また症状を理解した上で、実際の患者さんに対応できるようになるために、さまざまな症状を見分けるための方法や、それに対する対応策なども学びます。もちろんまだまだ判らないことが多い分野ですが、最新の情報にアップデートしながら、作業療法士になった時に自分でその症状を解釈し、自分で対応策を考えられるようになってほしいと思って授業をしています。
趣味や特技など好きな休日の過ごし方などを教えてください
- 旅行に行くのが趣味で、COVID-19が世界的に流行するまでは、計30か国ほどに行きました。もちろんプライベートで行くことが多いですが、中には海外の学会に出席したり海外の大学との共同研究の相談で訪れたりした国もいくつかあります。例えば南米のチリで作業療法の国際学会があった際には、地球のほぼ裏側なので飛行機で待ち時間も含めて丸1日以上かかったと思います。そのあと休みを取ってナスカの地上絵やマチュピチュなどがある隣のペルーも訪れました。もちろん研究の成果を発表し他の研究者と情報交換することはとても有意義ですし、そのために行っているのですが、旅行が趣味な私にとっては「趣味と実益」を兼ねているとは言えると思います。みなさんも作業療法士になったら、研究も意識してみてください。皆さんができるだけ多くの情報を得てしっかり勉強することが、患者さんにとっても利益になると私は思います。