研究室訪問

  • リハビリ
    テーション
    学科

    • 特任教授
    • ニシカワ タカシ 西川 隆
  • 理学療法学専攻 特任教授 西川 隆(ニシカワ タカシ)

プロフィールを教えてください

  • 奈良県生まれ、72歳の精神科医師です。

    若い頃の15年間は、脳血管障害や神経変性疾患の急性期からリハビリテーションまでの治療に従事し、その後は、大阪大学医学部講師、同附属病院神経科精神科病棟医長、大阪府立大学総合リハビリテーション学部教授として長い間、医学・医療の教育にたずさわってきました。

    2019年から奈良学園大学に招いていただき、2023年に開設された大学院リハビリテーション学研究科で研究科長を務めています。

どんな研究をされているのですか?

  • 脳とこころの関係を解き明かすことを志して40年近く研究してきました。

    脳血管障害など局所的な脳の障害によってどのような症状が出現するかという症例研究は若い頃から今日まで変わらずに続けていますが、脳画像技術の進歩に伴って、ある課題を遂行する際に脳のどこが働くのかという実験的な方法による研究もしてきました。

    そして現在は、リハビリテーション療法士の若い先生方とともに、認知症や精神障害の患者さんたちがより快適で幸せな日常生活を送るためにどのような支援が必要かということを研究しています。

    生老病死(しょうろうびょうし)は誰もが避けられない宿命ですから、同じ運命にある人々への大いなる共感にもとづいた人生観、生命観というべきものが医療に求められていることをこの齢になってあらためて考えるようになりました。

今の研究分野に興味を持つきっかけやエピソードを教えてください

  • 私が精神医学を志したきっかけは高校時代の出来事でした。

    級友の一人が哲学や宗教的な思索の末に急に活動的になって、夜通し奈良公園のベンチで際限のない対話に付き合ったのでした。彼の話は高校生には難解で論理が飛躍している印象がありましたが、深遠な意味が隠されているようにも感じられ、何よりも世界は変わるべきだというその切実な訴えの迫力に圧倒されたのでした。数週間興奮混じりの彼との対話に付き合いましたが、やがて夏休みに入るとともにその対話は途絶えました。驚いたのは、新学期が始まって再会した時、彼の態度が見違えるように平静で、さらに言えば世界に対して無関心であるようにさえ見えたことでした。いったい彼に何が起こったのか。人間の精神というものの不可解さを思い知らされ、私が人間の精神の構造とメカニズムを学びたいと志すきっかけになった体験でした。 

    精神医学を学んだ今の私は彼の言動とその変貌を精神医学の用語で説明することができます。しかし、ある症状や状態を教科書の知識に当てはめて理解することと、心底「腑に落ちた」と納得することは同じではありません。当時の私は、精神を理解するためには脳の働きを知らねばならないと考え、神経心理学という学問を志したのでした。

担当している授業の中の1つを紹介してください

  • 精神医学

精神医学はどんな授業ですか?

  • 皆さんがセラピストになったのちも必要な精神障害の基本的知識を学ぶ授業です。1年生後期の15回で完結させねばならないので、残念ながら個々の精神障害について深く掘り下げる時間的ゆとりがなく、国家試験レベルの基本的知識を解説することが中心になります。

    それでも、人間は生物(バイオ)であり、たったひとつの心をそなえた個人(サイコ)であり、かつ、社会で何らかの役割を果たしている社会的存在(ソーシャル)であるという多次元的な観点と、精神障害に対する偏見や医療者側の無見識が差別に加担してしまう危険性など、社会に出てからも皆さんに深く考えていただきたい大切な事柄については、私の経験を踏まえて何とかお伝えしたいと考えています。

趣味や特技など好きな休日の過ごし方などを教えてください

  • 奈良という他にはない歴史的風土に育ったので、中学・高校時代から神社仏閣巡りが好きでした。今でも古代・中世美術の鑑賞や仏教思想の読書が休日の楽しみになっています。わが奈良学園大学は間近に世界でも稀な古い建築・美術に囲まれているという恵まれた環境にありますので、若い皆さんにもぜひ多くの機会にそれらに触れていただきたいと思います。

    また、中学・高校時代から山登りが趣味で、夜行列車に乗って日本アルプスに登りに行き、高校1年生の時には一人で槍・穂高を縦走するなど冒険もしたものです。今でも休日に近くの山に登ります。山の上から下界を見渡すとたいていの悩みはちっぽけなものになってしまいますよ。悩んだときは山登り!