人間教育
学科-
- 教授
- マツイ ノリオ 松井 典夫
プロフィールを教えてください
- 公立小学校教員を経て、大阪教育大学附属池田小学校で9年間勤めました。この学校では2001年6月8日に、学校の暴漢が侵入し、8人の子供たちの命が奪われ、15人が重軽傷を負う痛ましい事件が起こりました。この事件は、「学校の安全」を根底から覆し、学校安全の創生と教師の役割を、改めて私たちに突きつけました。私はそこで、学校安全主任として務めるとともに、全国で初めてとなる「安全科」の創設に関わり、安全科主任として、前例のない安全教育カリキュラムの作成に携わりました。この時から、私の教育観やあらゆる場面、授業のテーマは「子供の命」が根底に実存するようになりました。その後、学校安全・安全教育の研究を推進し、これからの教師になる学生たちのこのことを伝えていくため、大学教員、研究者になりました。現在は学校安全・安全教育の研究を推進しながら、その研究の成果を、授業の中で学生の皆さんに伝えるとともに、教育現場の先生方に、講演活動や論文執筆、書籍出版などを通してお伝えする活動をしています。
どんな研究をされているのですか?
- 私の研究分野は学校安全・安全教育です。現在の研究テーマは、「教訓の伝承を基盤とした『有効性』と『持続性』をもつ学校危機マネジメントの構築」というものです。2001年の大阪教育大学附属池田小学校事件、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、毎年のように発生する子供の連れ去りや交通事故による被害など、これまでに多くの大切な命が奪われ、失われてきました。そしてその災禍は、同じように繰り返されています。失われた命は、次代の命に繋がる多くの教訓を残しているはずです。私の研究テーマは、その遺された教訓を生かし、次代の命に繋げていく試みと言えるでしょう。
今の研究分野に興味を持つきっかけやエピソードを教えてください
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「教訓の伝承」が私に研究のキーワードになりますが、これは私自身の体験がベースになっています。私が大阪教育大学附属池田小学校に赴任したのは2005年で、事件から4年が経とうとしていた頃でした。学校にはまだまだ色濃く、事件の影響が残されていましたが、当時の私は(事件を見ていない自分に、いったい何が語れるのだろう)というジレンマに苛まれていました。しかし、「事件時にいた教師」が一人ずつ去り、私はいつしか「事件後に来た教師」の代表のようになり、よくマスコミの取材を受けたりしました。その中で、事件の教訓を伝承する役割の大切さとともに、そのジレンマの存在に強い関心を持つようになったのです。
この時の体験や内面に発生したものが、現在の私の研究の潮流を生み出したのです。 -
担当している授業の中の1つを紹介してください
- 現代教育課題C(学校と安全)
現代教育課題C(学校と安全)はどんな授業ですか?
- この授業では、私が先ほどから述べている大阪教育大学附属池田小学校での教育体験や研究をまとめた著書「どうすればこどもたちのいのちは守れるのか ー事件・災害の教訓に学ぶ学校安全と安全教育」(ミネルヴァ書房)をテキストにして、内容を読み合い、学生がまとめて発表し、全体でディスカッションする授業となっています。タイミングがあった時には中国からの留学生がこの授業を履修し、グローバルな視点でのディスカッションも展開されてきました。教育学を学ぶ上で、子供の命を基盤とした学校安全について学習することは、将来の教職、あるいはひとりの大人になる上で意義のある学問であると考えます。
趣味や特技など好きな休日の過ごし方などを教えてください
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趣味や特技というわけではありませんが、私は年に数回、研究会を母体とする「カンボジアスタディーツアー」を主催しています。このツアーの目的は、「新たな自分を発見し、レジリエントな自身へと変容させる」です。参加者は、本学学生のみならず近畿圏の様々な大学の学生が参加し、有意義な体験をしています。このツアーでは、① カンボジアの小学校などで算数(数学)、道徳、安全教育などの授業を実践する「授業体験プロジェクト」、② スラムなど、貧困な地域の子供たちに栄養価が高く、美味しい食事を提供する「フードプロジェクト」、③ カンボジアの大学生と「命」をテーマに語り合い、文化や慣習、考え方の違いを共有し、学び合う「命のディスカッションプロジェクト」を実施しています。大学生という事故は、このようなチャレンジングな学びや体験ができる唯一と言ってもいい、貴重な時期なのです。
▶「本当に人を輝かせる教育を共に考えたい」奈良学園大学教授 松井典夫先生(Youtube 動画)